ヨジローの書斎

「盗賊の花嫁」

盗賊の花嫁

パウル・ツァウネルト
(ヨジロー訳, 2007/10/09)

 ある大きな森の中にぽつんとひとつ水車小屋があり、一番近い村もそこから遠く離れていました。水車小屋の主人がお金持ちであることは多くの者が知っていました。森をねぐらとしている盗賊たちも同様で、もう長いこと水車小屋の主人のお金を狙っていました。ある日のこと、主人は妻子を連れて結婚式に行くことになりました。水車小屋に残ることになったのは、若い女中一人だけでしたが、この女中は大胆で、陽気で、怖いものなどまったく知らない娘でした。出発の前に主人は、「もしかしたら今夜は帰ってこないかもしれない。そしたら水車小屋にいるのはお前一人になるので、よく気をつけて家を守るのだぞ」と言いました。しかし娘は笑って、「お好きなだけ向こうにいらしてくださいまし。ちゃんと気をつけますから。」と言いました。

 しかし盗賊の一人が何もかも盗み聞いており、それを仲間に伝えました。暗くなったとき、十二人の盗賊が押し入るために水車小屋の周りに忍び寄ってきました。どこから入り込んだら一番いいかと様子をうかがっていると、女中が陽気な歌を歌うのが聞こえてきました。そこで盗賊の一人が言いました、「恋人のふりをして、あの娘を呼び出そう。そうすればそれだけ俺たちの仕事は楽になるというもんだ。」そして窓の下に立ち、小声で呼びかけました。「ねえ、出ておいでよ。」しかし彼女は言いました、「別の日に来て。今日はダメなの。」

 その間、他の者たちは水車小屋の壁に穴を開けたのですが、その穴は一度に一人が通れるだけの大きさしかありませんでした。女中はちゃんと物音を聞いており、肉切り斧を持ってこっそりと穴の前に歩み寄っていました。さて最初の男が頭を穴から出すと、彼女はその頭を斧で切り落とし、胴体を中に引っ張り入れました。二人目が、「今度は俺の番だな」と思い、中に這い込みました。あっと思う間もなく、彼も最初の男と同じ目にあいました。こうして彼女は次々に十人の盗賊を殺しました。しかしもう場所がなくなってきたので、その後はそれほどスムーズにことが運びませんでした。十一番目の男は自分の前の男に言いました、「早くしろ。壁をくぐり抜けるのにどうしてそんなにぐずぐずしているんだ。俺も水車小屋の主人の金の分け前がほしいんだ。」そして彼もまた頭を中に押し入れました。娘はその頭も切り落としました。しかし十二番目の男は様子がおかしいと感じ、入れた頭をすぐまたさっと引っ込めました。それで娘は彼の頭のてっぺんをはげにすることしかできませんでした。彼は立ち上がるやいなや、一目散に逃げ去りました。

 次の日、粉屋の一家が結婚式から戻ってくると、水車小屋の玄関には鍵がかかっていました。戸を何度もたたいてようやく女中が戸を開けました。というのも彼女は、十一人の盗賊を片付けた後、死体のそばに倒れ込み、もはや何も聞こえず、何も見えず、戸をどんどんとたたく音でようやく目を覚ましたからです。しかし主人たちがもっと驚いたのは、中に入って血だらけの盗賊たちの死体を見、何が起こったのかを聞いたときです。娘の勇気ある行動に対しては、賞賛の言葉をどれだけ費やしても十分すぎることはありませんでした。しかしその日以来、彼女からは快活さが消え、歌を歌うことはもうまったくできなくなりました。そして、しばらく時が経ってからのことですが、立派な衣装を身に着けた旦那が日曜日に水車小屋を訪れ、彼女を嫁にほしいと申し出ても、彼女は結婚のことなど考えられないと言いました。しかし他の者たちは、こんなよい縁談を断ってはいけないと彼女をたしなめ、申し出を受けるように言って聞かせたので、彼が再びやってきたときには、彼女は承諾の返事をしました。

 それから数日して、花婿は豪勢な馬車に乗って彼女を迎えにきました。娘は乗り込み、二人は結婚式──そう言われていたのです──に出発しました。彼らは町といくつかの村々を通り抜け、はるばると深い森の中に入り込みました。すると花婿は、ちょっと掻いてもらいたいところがあるんだが、と言って、帽子を脱ぎました。「髪の毛のないところがあるのね」と彼女は言いました。「ああ、そうともさ」と彼は答えました──「まだ覚えているだろうが、お前は俺の十一人の兄弟を肉切り斧で打ち殺したんだ。そして俺の頭のてっぺんを削り取ったんだ。油で焼かれたいか、針で刺し殺されたいか、どっちがいいか決めな。」死の恐怖に襲われた娘は馬車から飛び降り、走って逃げます。しかしすぐにまた盗賊に捕まってしまい、彼女は隠れ家に連れて行かれます。戸口には、盗賊たちのために賄いをさせられている一人の老婆が立っていました。彼女は、若い女中がそんなにも青ざめショックを受けているのを見てとてもかわいそうになり、手を取って自分の小部屋に連れて行き、なだめ、慰めてから言いました、「お前はいつも恐れを知らない子じゃないか。水車小屋にいたときあんなに賢く、あんなに勇敢だったのだから、お前がこの家からまた出て行けるように助けてやろう。だが、わしが助けたとは絶対に言ってはいけないぞ。」

 夜になると、盗賊が彼女に、自分とその仲間に酒を持ってくるように命じました。おばあさんは女中に言いました、「ワインの入った甕を持っていって、みんなに好きなだけ飲ませるがいい。でもお前のほうはどんなに勧められても一滴も飲むんじゃないよ。眠り薬を一瓶入れたんじゃが、どんな猛者だってこれには勝てないさ。盗賊たちが寝転がり眠り込んだら、お前は逃げるがよい。だが、ドアにはみんな鍵がかかっており、窓にはみんなかんぬきがかかっている。お前が外に出るには溝を通っていくしかないが、それはあいつらが人間を殺したときに血を流すときの溝さ。まだ開いているのはそこだけじゃ。しかしお前は下着とネッカチーフ以外何も身につけてはならない。」かしこい女中はおばあさんに言われたようにしました。盗賊たちがぐっすりと眠り込むと、彼女は服を脱いでシャツとネッカチーフだけになり、胸をどきどきさせながら血が流される溝の中に這い込みました。そして一目散に逃げました。

 しかしまだ遠くまで行かないうちに、盗賊が後を追ってくる音が聞こえました。そのとき彼女は干草が山積みにしてある牧草地にやってきました。急いで彼女は一番奥の牧草の山の下に這い込みました。すると盗賊たちもすぐにやってきて牧草の山を次から次へとひっくり返しました。しかし彼らが一番奥の山以外のすべての干草をひっくり返したとき、一人が言いました、「こんな干草のところで俺たちはいったい何をぐずぐずやっているのか。どの干草にも彼女はいなかったのだから、まさか最後の干草の山にいることはあるまい。さあ先を急いであいつを追いかけよう。」彼らが行ってしまうと、娘はまた逃げ始めました。しかし家まではまだ遠かったので、彼女はとても不安でした。そのとき彼女は毛皮を積んだ一台の荷車に行き会いました。彼女は下着とネッカチーフしか身につけていなかったので、すばやく車に飛び乗り、一番下の毛皮にもぐりこみました。すぐに盗賊たちもやってきて車を止めました。御者が何を言おうが、何を頼もうが聞いてもらえず、車の荷を全部降ろさなければなりませんでした。毛皮が一枚一枚めくり返されました。しかし一枚調べられるごとに盗賊たちのいらいらはつのってきました。そして車に残ったのがちょうど最後の毛皮だけになったとき、彼らは調べるのに疲れ、「どの毛皮にも隠れていなかったのだから、この毛皮の下にもいないさ」と言いました。そして急いで行ってしまいました。

 こうして娘はまた逃げ始めました。故郷からもう程遠くないところに来たとき、彼女はパンのこね桶を積んだ荷車に追いつきました。死ぬほど疲れていたので、少し休むために一番奥の桶の中に身を横たえました。しかしちょうど彼女がまどろみ始めたとき、盗賊たちが怒り罵りながらやってきてこの車も止めました。「この中にいると思うなら、自分たちで調べてみてくれ」と御者は言いました。それで盗賊たちはまたもやその仕事に取りかかり、桶を次々に投げ下ろしました。しかし、ここでも娘が見つかる気配がまったくなかったので、彼らはうんざりし、一番奥の桶をそのままに残し、前のときと同じように言いました、「どの桶にもいなかったんだから、この桶にもいないさ。さあ、先に行こう。」

 このようにして娘は三度目も窮地を脱し、無事に家にたどり着きました。娘はその後もつつがなく暮らしましたが、生涯結婚することはありませんでした。